インタラクティブミュージック発表会2018 発表資料

投稿者: | 2018/03/27

だいぶ久しぶりの投稿になりました。

先日「インタラクティブミュージック発表会2018」という発表会で登壇させて頂きましたので、その資料を公開します。

スライドだけだと、雰囲気が伝わり切れないので(サウンドは音があってなんぼなので)、必要な部分には解説や動画を加えながら進めていきます。また、説明しきれなかった部分も盛り込んでいきたい思います。

実際のアプリ・その映像は、残念ながら「会社で作成したもの」ですので、公開ができません(会社名義で発表しようとするとレギュレーションが云々とか超絶面倒くさいので)。まぁ、公開するほどのものでもないので、ねつ造した画像と関連動画でご容赦いただきたいと思います。「全体の雰囲気が伝わればいい」と作ったねつ造画像なので、手札のカード表示とか、パラメータとか、ゲームの進行とは関係ないです。ご容赦ください。

コインのベットをおこないます。

手札を切ったりしながら役を作っていきます。

ストレートになりました(前述の通り、見た目の手札はストレートになっていませんがご了承ください)

役がそろいませんでした。まぁ、一通りの流れは完成しました。

単にポーカーゲームを作るだけでは、正直モチベーションが保てません。少し自由な時間ができたのと、インタラクティブミュージックに興味があったこともあり、Unity + CRI ADX2 でインタラクティブミュージックの実装をやってみようと思いました。

まずは、ありきたりな方法論で考えてみました。通常音楽は「ピアノ+ベース+ドラム」の小編成バンドですが、役がそろうとビッグバンド風アレンジに変わります。負けたらまた戻ります。
(余談ですが、大して作曲能力はないので、作曲は非常に苦労しました・・・)

クロスフェードは少々気を使っていて、「静かな曲」と「派手な曲」を単純にリニアにクロスフェードしてしまうと、静かな曲はすぐに埋もれてしまいますし、お互いが 50% の音量になってしまうと、全体の音量としても下がってしまいます。聴覚上、トータルの音量が下がることなく綺麗にクロスフェードしたかったので、静かな曲は最後の最後まであまり音量が下がらない設計になっています。ここらへんはサウンドミドルウェアの魅力ですね。

まぁしかしながら、これだけだとあまり面白くありません。もっと何か面白いインタラクティブな演出ができないかと思いました。

NieR:RepliCant の音楽(特に「イニシエノウタ」)が好きすぎて、小学生レベルの鍵盤スキルなのにピアノスコアを買ってしまいました。

NieR のこの心に訴えかけるような世界観に触発されていた自分は、ポーカーゲームを「賭け事を再現して、コインという単なる数値が増減するゲーム」ではなく、もっと何か訴えかけられるものにしたいと考えました。

コインに意味を持たせることで、プレイヤー自身の「人生経験・社会経験」を通して「人間の心」にも紐づけることができるのではないかと思いました。

そんな感じで考えた結果、「借金機能」の実装を思いつきました。

代償は、(恐ろしいことに)プレイヤーの健康です。後述しますが、これは、視覚においては「視界のノイズとブレ」、聴覚においては「音の聞こえ方の変化」をもって健康の度合いを表現しています。視界だけだと実はあまり意味がなく、単に「見づらいなー」というだけの残念な感想に終わるのですが、音という「雰囲気・視覚以外の体験」がそこに加わることによって、ゲームの印象がガラリと変わります。

なお、「人間なのに実際にこんな視覚効果あるわけないじゃん」という突っ込みは無しでお願いします・・・。

現在コインを 67 枚持っています。これで 100 枚ベットしようとすると・・・

「おいおい、金がたんねーよ。お金欲しい?」と悪魔のささやきが出てきます。Yes を押すと・・・

「本当に?後悔しない?」と念押しされます。Yes を押すと・・・

借金した状態でゲームが開始されます。

このとき視界は、ほんの少しだけノイズが乗った状態になります。静止画像なので判り辛いですが、実際の画面だとちょっとちらつきがするだけで、実はたいした変化には思えません。一方音のほうはというと、こちらもちょっとだけノイズが走るようになり、聞こえてくる周波数もちょっと絞られます。

やっていることは、借金していく毎に

  • ハイパスフィルターとローパスフィルターで可聴範囲が狭まっていく
  • ピッチが下がっていく
  • ノイズが大きくなっていく

という手法を取り入れてます。

しかし重要なこととして、意図的に、視覚も聴覚も、一回借金しただけではあまり変化がないようにしています。特にピッチは、1回目は下がらないようになっています。

これはなぜかというと、「借金しても別に大したことないじゃん」とプレイヤーに思わせる思惑があります。何かの悪事、例えば麻薬などと同じですね。最初の壁さえ乗り越えてしまえば、たやすく道を踏み外します。そうやってこちらの思惑に引き込みやすくする狙いがあります。さて、プレイを続けましょう。

負けてしまったので、再度借金することになってしまいました。

「この程度なら、大丈夫大丈夫」と思っていると・・・

一気に視界が変化しました。ここで焦ってくれれば成功です。

これもまた静止画像だと判り辛いですが、毎フレームでノイズとブレがランダムで適用されるので、脳内で勝手に映像を補完してくれて、実物は存外まだ判りやすく見れます。ただ、明らかに1回目の借金とは様相が変わったのが判るくらいには変化させています。

音も当然、それくらい変わるようになってます。

最終的にはこんな感じになります。

音も当然やばいことになります。

「ごめんごめん、悪かった。借金返すから助けて」と、「所詮ゲームだろ?救済措置あるんだろ?」と、タカをくくってるかもしれませんが・・・

そんなもんありません。健康なんて、簡単に戻せるものではないです。足が壊死したら、切断するしかありません。ガンであれば、最終ステージまで行けば現代医療ではどうしようもないです。

最初は、「ある程度のレベルまでであれば、ゲームの回数をこなすことで自動回復させる」という機能も考えはしたのですが、そういう「自然治癒を表現する必要性」は正直感じられなかったというか、伝えたいのはそこじゃなかったので、「健康は奪い去られる一方」というほうに振り切りました。(まぁ実装時間もなかったですし)

存外、僕たちは普段「健康が当たり前である」と、健康を軽視しがちです。しかし、実際に健康が害されると、その不便さ、健康のありがたさが身に染みるものです。人間は「失ってみないとその大切さが判らない」そして「時が経てば、それを忘れてしまう」生き物です。もっと大きく言えば、歴史というものは、環境が変わり、世代が変わり、忘れ去られてしまうことで、同じ過ちが繰り返されてしまいます。人間は忘れることで生きていけるけど、忘れるとマズイことまで忘れてしまう。

今回のこの発表会に興味を持ってくださっている方々は、基本的に PC を使ったり楽器を使ったりして仕事をしていることでしょう。「もし目が見えなくなったら・・・?」「もし交通事故で指が、腕が、足が無くなってしまったら・・・?」

そういうことを、「実際に健康が害される以外のタイミング」で「ゲームという体験を通して」考えてもらう良い機会を提供できるのではと思いました。

このゲームは「純粋なポーカー部分以外のライフサイクル」は全く考えていません。なので、健康を害してしまった場合、パラメータ設定を消す以外に、このゲームを再度元通りに遊ぶことはできません。しかし思うのですが、「循環してゲームができる」ことがゲームにとって本当に必要でしょうか。一度きりしか体験できないことはゲームではないのでしょうか。まぁ、折角世に出す以上、何度も長く楽しんでもらいたい、という思いもあると思いますし、こんなことをビジネスでやってしまうと糾弾ものですが、今回はそういうことをやると伝わらないものがあると思いました。一度きりしか体験できないもの、したくないものであるからこそ、伝えられるものがあるのではないかと。

・・・まぁ実際のところ、「単に面倒くさかっただけ」というのを、それっぽくズラズラと言い訳してみただけです。恥ずかしいですね。しかも、研修で作ったものなんで、誰かが遊ぶわけではないんですし、だからこそこのシステムが成り立つんですけどね。

多分なんかもっとうまい具合に設定を作れば、健康度を元通りにするような仕組みを作ることはできると思います。

そんなわけで、発表内容の説明は以上です。日頃の健康に感謝し、良い人生をお過ごしください。